「おしり」の異変!!
肛門の痛みや、出血、違和感など、日本人の3人に1人は、痔で悩んでいるといわれています。場所が場所だけに、自分で確認するわけにもいかず、人にも相談しづらく、悶々とされている方もいらっしゃるのではないでしょうか?しかし「痔になってしまって…。」と外来を受診される方の中には、実は痔とは、まったく違う病態の方もいらっしゃいます。「おしり」に異変を感じたら、悩む前に病院を受診しましょう。
まず、痔にについて説明します。
痔には、大きく分けて「痔核(いぼ痔・脱肛)」、「裂肛(切れ痔)」、「痔瘻(あな痔)」に分けられます。
痔核
肛門の血流が悪くなり、血管の一部がイボ状に膨隆した状態です。肛門の直腸側にできるものを「内痔核」、外側にできるものを「外痔核」と分類しています(一緒のものは「内外痔核」)。
症状は、内痔核は出血(鮮血)や比較的柔らかいイボ状の脱出です。外痔核は疼痛と触るとコリッとした腫瘤があります。よく「脱肛」「肛門脱」という言葉を聞きますが、これは大きくなった内痔核が肛門の外に出た状態です。全周に正常組織を伴い脱出し肛門全体が反転した状態を指すことが多いです。軽度の状態で受診していただければ、外用薬や内服薬で症状を抑えることができますが、出血が続いたり違和感や脱出が続いたりする場合には手術治療が必要となります。
近年、痔核を切除せず注射で硬化させる治療法(ジオン注治療)もあり、病態によって選択できます。
◎高位結紮切除(入院治療)
上 12時(腹側)、下 6時(背側)
全周性の内外痔核(脱肛) 11時、7時、3時の内外痔核を切除。
上 12時(腹側)、下 6時(背側)
治療後
◎ジオン注治療例(外来手術)
左 6時(背側)、右 12時(腹側)
ほぼ、全周の内痔核。7時、3時、11時に対してジオン注治療施行。
左 6時(背側)、右 12時(腹側)
治療後
上 6時(背側)、下 12時(腹側)
3時、11時の内痔核。3時、11時にジオン注療法
上 6時(背側)、下 12時(腹側)
治療後
裂肛
太くて硬い便を排便することなどにより、肛門の一部が切れた状態です。排便時のみならず、排便後にも疼痛が継続することがあります。出血の多くは紙に付着する程度ですが、滴下するほどの出血が見られることもあります。
裂肛を繰り返すと、裂肛創の辺縁が肥厚しイボや肛門ポリープを形成し、肛門の狭窄をきたすことがあります。外用薬や、便を柔らかくするお薬で症状の軽快に努めますが、狭窄が強く痛みが出現した場合、肥厚した裂肛部を切除し肛門の狭窄を解除する手術治療を行います。
◎Sliding skin graft症例(入院手術)
裂肛部:瘢痕化して狭窄している所
裂肛部分を切除し縫合
皮膚をスライドして緊張をとる。
痔瘻
肛門の周りに膿がたまり、外に流れるトンネルができた状態です。肛門周囲の腫脹、発赤、疼痛、排膿が見られます。
肛門深部の違和感や鈍痛から激しい痛みへ移行することもあります。排膿し抗生剤の内服にて炎症が落ち着いたのち、瘻孔(トンネル)を切除するか、瘻孔を切り開く手術治療を行います。
◎瘻孔切除術
症状
瘻孔切除術
手術後
◎坐骨直腸窩痔瘻 ⅢB (馬蹄形痔瘻)
Coring-Seton法: Cutting+loose Seton(入院治療)
治療前:8時と3時に2次孔があります。
手術直後
原発巣、1次孔、2次孔を切除した後、
seton法(輪ゴム等で、ゆっくり瘻孔を開放)を施行。
術後1か月
変形を少なくするために、
輪ゴムでゆっくり括約筋を切開していきます。
術後2か月
自然に輪ゴムが落ちて、終了。
「痔だと思ったら違っていた!!」
病名として、「直腸癌・ポリープ」、「直腸粘膜逸脱症候群」「直腸脱」、などがあげられます。
直腸癌・直腸ポリープ
肛門の違和感や出血から「痔」の薬を希望して受診されても、検査をしてみると直腸癌や直腸ポリープが原因であることがあります。ポリープや癌の場合、早期の診断と治療の開始が必要です。明らかに「痔」が存在していても、症状や診察の所見では、大腸の内視鏡検査をおすすめすることがあるのはこのためです。この検査によって直腸癌・結腸癌・ポリープを早期に発見して内視鏡下で切除(ポリぺクトミー、粘膜切除術)できた患者様も当院には多数いらっしゃいます。
◎直腸ポリープ 内視鏡下切除例
直腸粘膜逸脱症候群・肛門ポリープ
粘血、直腸粘膜の脱出、肛門部の痛み、排便時に便がすっきり出きらない感じなどが症状としてあげられます。
これは直腸と肛門の移行部に潰瘍ができる、ぶつぶつした粘膜がわずかに盛り上がる、ポリープ状に隆起したものができるなどの状態による症状です。ポリープ状の隆起は、肉眼では直腸ポリープや癌との区別が難しいことがあります。このような場合は症状の観察とともに、病変部の一部をとって病理組織検査を行なって診断します。長時間トイレでいきむ習慣が原因の一つと考えられており、治療は排便の習慣を変えることです。大きなポリープ状の隆起ができた場合は切除して症状を改善することもありますが、一般的に手術にはいたりません。
◎肛門ポリープと粘膜逸脱併発症例に対する高位結紮切除術(入院治療)
7時の肛門ポリープと
6時方向の粘膜の逸脱
高位結紮切除術施行。
術後1日目
直腸脱
肛門から直腸粘膜および直腸壁全層が脱出する病気です。痔核、粘膜脱といった粘膜の一部だけの脱出とは異なります。ひどいものでは、直腸が反転して直腸壁全層が10~20cmほど肛門から飛び出します。原因は色々な説がありますが、骨盤底と直腸の固定、肛門括約筋(肛門を締める力)が弱くなることが誘因の一つです。ご高齢の女性の方に多くみられます。外用薬や内服薬では改善は見られず、治療としては外科治療が必要です。ご高齢の方の多くが複数の疾患をもたれることから身体への負担を抑えるためにも、当院では、「腰椎麻酔下に経肛門的に直腸脱に対する手術(Gant-三輪法+Thiersch法)」を行っております。
全身麻酔が許容できる患者様には、腹腔鏡下にメッシュを用いた直腸固定術も行っております。
◎Gant-三輪法+Thiersch法
直腸脱
手術後
内痔核に対する切らずに治すジオン注治療(四段階注射法)
従来の根治治療は、内痔核のイボの部分を外側の肛門縁の皮膚とともに切除し、直腸粘膜のみを縫合閉鎖する高位結紮切除術が行われていました。このジオン注治療では、1つの内痔核に対して4ヶ所(四段階)にジオン注(薬剤)を注射します。痔核に意図的に炎症を起こし、その修復反応で痔核を硬化・退縮させ、痔核の脱出を治療します。
痛みや出血もほとんどなく、患者さんにとって優しい治療法です。
以前にも注射で行う内痔核硬化療法がありましたが、根治性はなく定期的な継続治療が必要なことが多いものでした。しかし、ジオン注治療は、持続性(根治性)があり、根治手術治療でしか治せなかった脱出を伴う内痔核に対しても治療効果が期待できます。
「切る」「手術」という響きに恐怖感や抵抗を感じていた方は、ぜひ受診しご相談ください。
この治療は「四段階注射法」という特殊な手法で投与されます。
治療には高度な技術を要するため、現在は「当手技に関する講習会を受けた専門医の登録施設」においてのみ治療が実施されています。千葉にも登録施設はあり、もちろん当院も登録施設です。
しかし内痔核全例に対してこの治療が可能であれば良いのですが、内痔核の状態により適応にならないものや従来の高位結紮切除術のほうが適している症例があります。歴史の浅い治療法ですから、適応は慎重にする必要があります。 診察の上、適応症例であれば、日をあらためて局所麻酔下で日帰り手術を施行いたしますのでご相談ください(外科:海賀外来を受診してください)。
詳しくは、当院外科外来におこしください。専門医より診断から治療方法について詳しくご説明させていだだきます。当院には千葉市内はもとより、千葉県は四街道市、市原市、佐倉市、茂原市、山武市、銚子市など広い地域からたくさんの患者様におこしいただいております。
どうぞおひとりで悩まず、ご相談ください。